ゴールデンレトリバー撫でたい

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舞城王太郎の彼氏ヅラしながら『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』を観てる

みんな今期もちゃんとアニメ観てるかな?僕ははいふり劇場版が面白すぎて4回観に行って1月ははいふりのことしか考えていなかったよ。

そういうわけで、先週あたりからようやく今期アニメ観始めました。今期はかなり好みの作品が多いんですが、その中でも特に面白く観てるのが『ID: INVADED』です。

作品のあらすじ自体は(今のところ)比較的わかりやすい。警察に新設された特殊な捜査組織が、現場に残された痕跡から残留思念を読み取ることで犯人の深層心理の世界に入り込むことができる「ミズハノメ」という特殊装置を用いて、猟奇的な連続殺人鬼を追っていく。ジャンルとしてはSFミステリーとかになるかな。あと本堂町ちゃんがめちゃくちゃかわいいので萌え豚にも優しい。

きわめて舞城王太郎である

このアニメはきわめて舞城王太郎です。みなさんもTLに1人くらい、「舞城だ」「ここめっちゃ舞城」「舞城節」というツイートを繰り返しているフォロワーがおられるであろう。

これが何なのかというと…長くなるんですが、とりあえずIDに沿って説明します。この作品は深層心理であるイドの世界と、現実の世界の2つのラインがあり、その2つが絡み合うように進行します。ここでまず注目したいのがイド世界の設定です。

イドは1人につき1つ、殺人犯の無意識を表現しているバーチャル空間のような1つの世界になっていて、ミズハノメのパイロットがそこにダイブすることで犯人の深層心理を調査することができる。

そして、イドにダイブしたパイロットは名探偵と呼ばれている。イドはすべての世界に共通でかえるちゃんという女の子が死亡していて、それぞれの世界によって空間がバラバラになっていたり密室だったり浮いていたり滝だったり列車だったりする。

この設定はいったい何を表しているのかというと、古典的なミステリー小説への批評性です。つまり、ミステリーのお約束を意識しつつ、テンプレの用語を元の意味から滑らせている(しゃらくさい用語を使えば「脱構築」している)のがイド世界パートなわけです。ノックスの十戒Wikipedia)とか見るとわかりやすいですね。

これは第1話の酒井戸の台詞にも象徴されています。

世界のために何か自分の役割が用意されていると信じることはおかしいだろうか?

ここで酒井戸が言っていることは、ミステリー小説における「名探偵」とは、作中で起こる事件(知的なパズル)を解くための役割や道具に近い存在である、という事態なわけです。

しかし、酒井戸はこのような探偵と様相を異にしています。イドの名探偵はノックスの十戒のようなルールに従って事件というパズルを解くのではなく、パズルの在り方それ自体に懐疑を向けることができます。

住んでる世界そのものを疑う奴なんていないか…。

しかし名探偵の仕事はそこにこそある。

俺は世界の在り方すらも疑っていい。

ここに至って酒井戸がどのような存在であるかがわかります。イドの名探偵は、メタレヴェルの存在です。

これがわかりやすいのは、1話のイド世界の住人たちが世界や自分たちがバラバラであることに何の疑問も払わない点です。酒井戸が「これは密室殺人…!」とか言ってるところも、壁も何もないスカスカの空間で何が密室なのかというツッコミ待ちにしかなっていない。だが、これらはバラバラ世界の住民にとってはなんら疑問ではない。地球上では物が必ず下に落ちるように「世界の在り方」に属することだからです。

アニメでは現実世界と、イド世界の二層構造によってかなりクリアでわかりやすくなっています。しかし、これは媒体が本である推理小説では非常にややこしくなります。言ってみればイド世界パートのみでメタ推理小説をやるわけですね。名探偵が推理小説という虚構世界における自身の役割に自覚的である、それはすなわち、メタフィクションの様相を呈することになります。

長くなりましたがこれこそが舞城王太郎という作家の大きな特徴です。ミステリーへの批評性とメタフィクション。このような批評性や思弁性が濃く出ているのが『九十九十九』、また集大成的な大作『ディスコ探偵水曜日』のような作品になります。

九十九十九 (講談社文庫)

九十九十九 (講談社文庫)

 
ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者:舞城 王太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/01/28
  • メディア: 文庫
 

舞城王太郎は多面的な作家なので最初に何を勧めるかというとだいぶ意見が割れますが、すくなくともこの2つだけは最初に読まない方がいいと思う。集大成的な作品から読むというタイプの人もいるだろうけど特に文脈が多面的な作家だから…

また、なぜこんなややこしい小説を書いているのかというのを説明し始めるとそれもまた最低でも3万字くらいの評論が必要になるので、「メフィスト賞」「清涼院流水」「西尾維新」「新本格」「笠井潔」あたりのワードで調べてください。今期放送されている『虚構推理』もこれらの潮流に位置づけられます。

ここまで書くとかなり理屈っぽい作家に思えてくると思うんですが、舞城王太郎はガチガチのポストモダンの小説家ではなく普通にちゃんと楽しくておもしろい小説を書く作家です。理屈っぽくないわけではなくアクも強いけど。技巧としてはややこしくても、それを通して文学的なパトスや物語を再生しようとしている、ような印象が強い。ジョジョのノベライズは…知らん。

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

 

IDの副読本としてどれか1冊なら『煙か土か食い物』が一番いいかな、という気がします。アンチミステリーと純文学の舞城が凝縮されている。 『好き好き大好き超愛してる』も好きなんだけど。

村上春樹からの影響

IDで気になるのはもう1つ、村上春樹からの影響です。影響と呼ぶには直接的なので引用とかオマージュに近いか。

イド=井戸(=異土)は『ねじまき鳥クロニクル』を筆頭として異界に通じる通路としての井戸そのものだし、イド世界と現実世界が交互に絡み合って物語が進展していくのは、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『海辺のカフカ』あたりの村上春樹十八番を連想させる。

また、猟奇殺人犯たちの黒幕としてジョンウォーカーは、『海辺のカフカ』における悪の象徴ジョニー・ウォーカーでしょう。

個人的な雑感いろいろ

・何よりツダケン。ツダケンがマジで本当に最高。ツダケンのありがたみがとにかく高い。6話のクライマックスなんか本当に感動的でしたよ。

・舞城節を損なわず、なおかつ映像メディアの作品としても破綻せずしてる。10年前は映像化しにくい作家の筆頭に名前上がってたするんだが。ストーリー的にも先が気になるドラマになってるのが凄い。あと本堂町ちゃんがかわいい。「殺人を犯した者だけが名探偵になれる」というのもアイロニカルで好き。あと本堂町ちゃんがかわいい。

・個人的には、最新話の6話でポストモダンの象徴でもある円環が出てきたのが気になっています。話数的にも折り返しだしディスコでいうと上巻が終わったところにあたっていて、後半に向けてまた展開が変わっていくのかな?という気がしてる。

・最初はエグいくらい舞城ワールド全開だったので九十九十九とかまで出してくのかな?と思ったけどSF的な世界観設定がキチッとしてるのでそれはない気がしてきた。スタァライトでメタ演出やってたツダケンがいるのもなんか運命的な気はするけど。

・現実世界パートにおいてのミステリーのテンプレを考えると蔵が警察でミズハノメ(と鳴瓢)が探偵にあたるのかな?そうだとするとミズハノメを使っている警察がミズハノメの中身や仕組みについて知識を持っていない謎の機械として扱ってるのはなんとなく象徴的な気もする。

・やはり本堂町ちゃんがかわいい。虚構推理の虚構推理ちゃんと合わせて個人的今期の2大ヒロインです。できれば死なないでほしい。