舞城王太郎の元カノ目線で『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』観てる イドPart 4(水曜日の探偵と木曜日の探偵)

前回の続き。

(※2020/03/13 0:11追記)「木曜日」についてチェスタトン『木曜日だった男』を引いてすんごい面白い考察してる方がいたので下の方にリンク貼っときます。

トール

11話で本堂町が推理でジョン・ウォーカーは「1週間」の法則で殺人を行っていることを解明しました。

ここで思い出すのはあおきえい監督がTwitterに貼ってくれた舞城王太郎の手によるこのイラストである。

 2枚目を文字に起こします。

「イド」は最初提出したとき「ALIEN THURDAYYY」ってタイトルでした。

木曜日の探偵」が「木星Z」ってシステムで犯人の殺意に飛び込むっていう話で今のイドの原形はほぼできてました。

舞城王太郎の読者なら何が暗示されているか瞬時にわかるであろう、『ディスコ探偵水曜日』である。 

ディスコ探偵水曜日(中)(新潮文庫)
 

この作品の主人公の名前はディスコ・ウェンズデイ(綴りはYを3つ続けると書かれている)、そしてバディ的な役割のサブ主人公が水星C。

しかし、あくまでも企画段階の名前であってそもそも酒井戸とミヅハノメになっているし、この人同じキャラとか同じ名前よく使い回すので(「海王星D」みたいな奴もいる)、そんなに意味を深読みしてもしょうがない気もする。

…って考えてたんだけど、久しぶりにぱらぱら読んでたら見つけちゃったんだよね。ディスコ・ウェンズデイの意味。第3部パート2のラスト部分

「語源です。名前の元。ウェンズデイさんのお名前《水曜日》《Wednesday》の語源は《オーディンの日》《Wooden's day》です。北欧神話の神《オーディン》は《戦いの神》であり《魔術使い》であり、そして《知識の神》です。(…)」

こんなん書いてたか、北欧神話ね。じゃあ木曜日の「Thursday」って何の神が対応してるんだろ。

 また、木曜日を意味する英語 Thursday やドイツ語 Donnerstag などはトールと同一語源である[3]。

トール - Wikipedia

へえ、トールか。雷神トール。雷。雷……

f:id:yunastr:20200311030937j:plain

なるほどね。

そしてまだある。上のWednesdayの語源がオーディンだという挿話には、ギリシア神話ではヘルメスがオーディンと同一視されているという話が続く。

ではトールは何の神と同一視されてるのか?

ユーピテルもしくはユッピテルラテン語Jūpiter, Juppiter, 古典綴 IV́PITER, IVPPITER)は、ローマ神話主神である[1]。また最高位の女神であるユーノーの夫である[1]。 時として女性化・女体化して女神となり、その姿がディアーナであるという言い伝えもある。

日本語では長母音を省略してユピテルとも呼ばれ、英語読みのジュピターでも呼ばれている[1]

ユーピテル - Wikipedia

ローマ神話ではユピテル。Jupiter。「木星」。

そしてギリシア神話

ゼウス古希ΖΕΥΣ, ΖεύςZeus)は、ギリシア神話主神たる全知全能の存在[1]。全宇宙や天候を支配する天空神で、人類と神々双方の秩序を守護・支配する神々の王である。全宇宙を破壊できるほど強力なを武器とし、多神教の中にあっても唯一神的な性格を帯びるほどに絶対的で強大な力を持つ[2]

ゼウス - Wikipedia

同一視はゼウス。頭文字は「Z」。そして変身の神

ここまで来たら本編の中でも「神による7日間での世界創造」も出てきたし、もう完全に『イド』のストーリーも神話的な対応探せるのでは?と思って斜め読みだけしたんですが、今のところは特に何も見つけられてません。後でまた考えます。

ジョン・ウォーカーの1週間の法則では木曜日の担当は「墓掘り」になっていました。果たしてこれが何かに関係はあるのか。実際制作過程で消えた設定になってても全然おかしくないと思うけど。

(※2020/03/13 0:11追記)

この記事書いてから反応頂いた中で、チェスタトン『木曜日だった男』についてすごい面白い考察書いている記事を読ませて頂いたのでここに貼っときます。

note.com

 さて作中で唯一言及があった作家チェスタトンは『木曜日だった男』という小説を書いている。
 曜日をコードネームに持つ男たちが幹部のテロ組織の話で、主人公は潜入捜査官としてそこに入り、木曜日の名を得て内部を探っていく…というところから奇想な展開になっていき滅法面白いのでオススメなんだけど、これイドと関係あるのかな。ざっくりとしか覚えてないし読み返す時間もないので検証できないんだけど。聖書からの曜日のくだりもある。ともあれチェスタトンは裏返すのが得意でいつもやる。面白いよ。

完全に元ネタじゃん!急いで読まなきゃ(文学の素養がない人)

水曜日の探偵と木曜日の探偵

ここからは個人的なとっ散らかった雑感なので適当に読み飛ばしてください。

最初に書いたように、わたし近年の舞城ほとんど読んでないんですよ。なんと淵の王すらイドが始まってから読んだ。ディスコがあんまり大作すぎたのであれでほぼ満足しちゃったし、正直言うと一時代は終わった作家フォルダに入れてたところもある(ごめん)(最近はエゴサしてるらしいから)。

アニメの方の仕事も散発的に見てたけど、龍の歯医者とかももう~ん悪くはないけどなんかな~みたいなのが大きかった。

といったところにイドです。まさか2020年代の幕開けにやることが舞城王太郎の長文になるとは思わなかったよ、俺も。最初は"文脈"読める奴だけが支持するだけかなと思ったけど、明らかに非舞城オタにも好評だし、中国でも異常に人気らしいし。

それとやっぱりミステリーに帰ってきてくれたのが嬉しい。『淵の王』も読んでるとジャンル的にどうかというより文章が上手すぎてひたすら怖かったので作家としての力量は円熟期に入ってるんだなと思いましたが、もう本能的に胸が躍るのはミステリー扱ってる時なのは嘘がつけない。 

そいうわけで作品論やるにはちょっと熱心さ足りんなと思ってたんだけど、作中で色々な匂わせ見てると頭から勝手に出力されてくるものもあるので少しだけ。対照テクストはディスコ探偵水曜日に絞ります。

『イド』の方からいくか、最初に気にかかったのは第6話の円環の世界です。

言うまでもなくというか、円環はポストモダン的袋小路の最も象徴的な記号です。カエルちゃんは自殺しており、電車はどこにも辿り着かない。解決すべき事件はない。探偵の役割は宙に浮いたままである。世界は始まりと同時に終わりであり、また始まりも終わりも存在しない。

自分の尾を飲み込むウロボロスのように、あるいは夢の中でその夢を見るように、あるいは作中のキャラクターによって書かれる小説のように、世界は「閉じている」。

『ディスコ』では、円環のモチーフは主に時間のループとして現れていました。世界の時間は壊れていて、探偵の役割は時間の中で果たすことから、時間を超越することへと変わる。水星Cの「C」は「O」に穴を空け時間を線形に戻すための象徴である。

さて、『ディスコ』が「外に出る」というモチーフを持っていたのに対し、『イド』はタイトル通り「内面を見つめる」というベクトルに傾いている気がします。そしてそこには「今見ている世界は夢か現実かわからない」という新しい世界観が導入されているような気がする。

このあたりの補助線のために手元から適当な一節を引用すると、たとえばマルクス・ガブリエル/スラヴォイ・ジジェク『神話・狂気・哄笑』(2009年)より

思考を世界の本質として定義するのは近代哲学に特徴的である。

(…)

したがって、我々は何が実在的であるかを知ることができないとしても、我々は少なくとも、「世界は我々の頭のうちにある」ということを知ることができる。これが、私が近代的反省の立場と呼ぶものである。

非常に注目に値するのは、現代の映画が、経験の持つ夢のような構造を再発見し、この構造によってポストモダン的断片化という終わりのないアイロニカルな自己否定を置き換えていることが見られることである。ポストモダニズム(その美学的表現であれ、哲学的表現であれ、すべて含めて)はいかなる形而上学的立場を主張することも避けてきた。反対に、現代の映画は広く形而上学の回帰によって特徴付けられている。

(…)

ここで言及された映画の解釈に深入りせずとも、少なくとも一つのことは明白であるように思われる。すなわち、デカルトの夢の問題は今日でも未だに我々を思い悩ませているのである。

おそらくこの方向性で最も強い影響があったのはインセプションなんでしょうが俺はいまだにちゃんと観たことがない(テレビで左上に「夢の第◯階層」って出てたやつは観た気がする)。

いずれにしても、私が今考えているのは、『イド』は「世界の外を考えること」に変わって、「世界の複数性」みたいなテーマが考えられるんじゃないか、みたいなことです。

この作品はイドの世界にしろ現実にしろ回想にしろ「この場面は、いつ、どこなのか?」という場面がいくつかあります。その混在が特に入り組んでいたのは第9話~第10話の飛鳥井木記の世界と夢の世界ですね。

この文脈で読んでみたいのが第10話の台詞

本当の俺は現実にいるんだ。君のいない、椋もいない、現実に。

「今とここで表す現在地点がどこでもない場所になる英語の国で生まれた」ディスコ水曜日は、自分の意志で世界を変えることを選んだが、鳴瓢秋人は「世界を引き受ける」方を選んだ。そこには確かに実存の重みがある。

…とちょろっと書いてはみたけどまあ自分のお遊びより本編のストーリーの方が比べ物にならんくらい楽しみなので残り2話、まだまだ楽しみにしています。

※続き

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